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VOICE vol.74

関口 尚

Hisashi Sekiguchi

--- 関口さん・・・サインください!関口さんの本、「プリズムの夏」持ってきたんです!

 

じゃあ落款持ってくれば良かったなぁ。デビューした時に作ったたもので、本当はサインの下に赤い印を入れるんですよ。

 

--- わ~じゃあ今度ぜひ!それと・・・記念写真を!

 

えぇ?!僕も本持ったほうがいいんですか?自分のサイン本持ちながら記念写真って初めてだなぁ。だんだん緊張して汗出てきた(笑)

 

--- 暖房止めましょうか?(笑)

 

大丈夫です、はい(笑) (パシャリと記念撮影終了)

 

--- ありがとうございます!やった!

 

緊張するな~(笑)。やっぱり作家さんも慣れてないと緊張するんですよね。最近後輩の作家さんがテレビで紹介されてすごく売れたんです。それでサインする機会も増えたんですけどしたことなかったから緊張して、2011年と書くところを、間違えて20011年って書いちゃったんです(笑)

 

--- わはは(笑)。超未来ですね(笑)。

 

でもそこは書店員さんの方が作家さんを招いてサイン会とかよくしているので慣れていて「20011年までこの本を僕たちが売ります!」とか言ってくれるんです。優しい人たちが多いんですよ。

 

--- それは気転が利いてますね~!ナイスです!

 

僕の場合は講演会とかに来てくれた方が本を買ってくださってその後にサインを、というのが多いんですよね。

 

--- 講演会!でもそうですよね、関口さん賞を2つもとってますもんね。ホントすごい。

 

坪田譲治文学賞っていうのをもらったんですよ。子供から大人まで読めるという小説が対象なんですが。

 

--- そう、その賞の作品を最初に教えてもらったのに、デビュー作を読んじゃったわたし・・・。これはすばる新人賞をとった時のですよね。

 

デビュー作って、本当に恥ずかしくって(笑)。新人賞だから、素人じゃないですか。だから何だか青臭いし、恥ずかしくて読めないですもん。

 

--- でもそこがいいんじゃないですか?おもしろかったですよ、とっても!爽やかで・・・。

 

そうですかね~。デビューするとほとんどは依頼が来て書くという繰り返しの生活に入っていくから、最初の作品っていうのは誰からの依頼もなく制限もなく書いた作品で、そういうのはこの作品だけになると思います。

 

--- そっか~そういう仕事の仕方なんですね。「こんなの書いたんですけど、どうですか?」という感じで進んでいくのかと思ってました。

 

そういうのは本当に偉い先生方だけだと思いますよ。ただ依頼で「こういうカラーで」というのがあっても、最終的に書くのは自分ですから、自分がどんどん入っていっちゃうんですよ。例えば坪田譲治文学賞をとった時の作品はトライアスロンの話なんです。でも「トライアスロンの話を」と言われて、そのままトライアスロンの勝敗だけの小説を書いても僕としてはおもしろくなかったので、自分の中の問題意識とかそういうものをどんどん入れていったんです。

 

--- やっぱり・・・小説家さんなんですね~!先生・・・!

 

え~何ですか、緊張するんですけど(笑)。

 

--- 小説家さんって身近にいないし、あまりテレビとかにも出てこないし・・・興味津々。そうそう、中村先生も「関口くんは小説家なのか?!」ってビックリしてましたよ(笑)。「普段は無口なのになぁ」って(笑)

 

そんなことないのに(笑)。中村先生・・・未だに僕のプライベート勘違いしてるんですよね。

 

--- 勘違い?

 

写真を始めたころに彼女と別れたんですよ。

 

--- それがきっかけで写真を始めたんですか?

 

まぁそのこともありますね。その子は高校生の時からずっとフィルムで写真を撮ってる子だったんですよ。お風呂に入っていても、トイレに入っていても、寝てても裸でもずっと撮っているのを見ていて、僕はその頃写真に全く興味がなかったから「おかしな子だなぁ」と思ってました(笑)。飼っていた猫が亡くなる時、息を引き取る瞬間まで撮っていました。僕としては、最後まで触れていたいとか「ここにいるよ」って言ってあげたいとか思ったんですけど、彼女はずっと撮り続けていました。それが今になって解ってきたんですよね。そういうのって写真を本当に撮るようになっていないと解らない感覚じゃないですか。それで別れた後に何で彼女はあんなに撮っていたのかなと思って。

 

--- 彼女が撮っていた理由を知りたかったから?

 

そういうのもあるし・・・ちょっとおもしろそうだなって思って。そうそう、それで先生の話に戻るんですけどね。その彼女別れて半年ぐらいしたら戻ってきたんですよ。別の人の子を妊娠して。

 

--- へ??

 

子供できて、結婚して、離婚したって。

 

--- 待って、待って!え~っと6ヶ月で・・・?

 

6月に別れて、12月に戻ってきたらお腹が大きくなってて(笑)

 

--- ハード・・・。

 

その子が僕と付き合っていた頃に那須に旅行に行ったのがすごい楽しかったから、もう一度行きたいって言うんですよ。ぜんぜん知らない人の子供がお腹にいる人と僕は旅行に行くのか?って思ったんだけど、断りきれずに行ったんですよ(笑)。その時はもう僕は中村教室に入学してた頃なんですよね。それで、その旅行の時に撮った彼女の写真を授業に出したら、中村先生がおもしろいって言ってくれて。

 

--- 行ったんですね~・・・優しいなぁ。

 

普通、妊娠してたら幸せそうに写るじゃないですか。それがひどい距離感があるし、表情もなんか暗いし・・・。僕自身もどんな立場でいたらいいのかみたいな感じで。だから全然楽しそうじゃなくて、魂が抜けたような。それが写真に出たのか、おもしろいって。それからことあるごとに先生が「あの子とより戻ったんだろ?」って言うんですよ(笑)。いや、戻ってない、戻ってないって(笑)。

 

--- そういうのよく覚えてるんですよね、先生(笑)

 

でも間違って覚えてるんですよね(笑)。違うって言ってるのに(笑)。

 

--- でもその写真見たかったな~!

 

技術的には全然だけど、やっぱりちょっとおもしろいですよ。あの時はただ撮ってるだけで解らなかったけど、今思えば写真にはやっぱり関係性って出るんだなと思いますね。だから写真をやっていて良かったなって思います。

 

--- このきっかけはめずらしいなぁ。すいません、おもしろかった・・・(笑)

 

おもしろいですよね(笑)。でももともと映写技師だったんですよ。だから別のものだけど、フィルムにはよく触ってましたね。

 

--- そうだったんですね~。だから暗室も好きなのかな?暗いところが・・・。

 

そうかも。

 

--- ずっとフィルムですもんね。そうそう、小説って言葉で表現するじゃないですか。でも写真は真逆のところにある表現手段で・・・。そのふたつの関係はどうなんですか?

 

僕の中では全く逆だからおもしろいんです。元々写真ってラクだと思ってたんですよ。小説は何かを見て感じたことを言葉に変換して白い紙に書いて人に伝えるという仕事だから、写真は撮っちゃえばそれで終わりじゃんって思ってたんですね。小説はうれしいとか悲しいとかそのまま書けないんですよ。色にしても「空が赤い」じゃダメだから、一番的確なを選んで紙に表現していくんですね。そうやって言葉で全部やっていこうと思っていたから、写真は簡単だって思ってたんです。

 

--- 確かにカメラはシャッター押せば、とりあえずは撮れますもんね。

 

そうなんですよね。小説の世界はエンターテイメントと純文学というふたつの分野があるんです。エンターテイメントは直木賞で純文学は芥川賞で、後者は本当に文学、表現なんですね。小説を書くというのは表現は表現なんですけど、僕がやっていこうと決めたのはは前者のエンターテイメント、話のおもしろさなんですよね。その分野で表現にこだわりすぎると逆に青臭いとか嫌がられたりするんですよ。だからその分野に長く身を置いているとだんだん表現から遠くなっていってしまうんです。あらすじを書くための言葉しか使わなくなってくると、自分が自分の言葉でどこまで何を表現できているのか分からなくなってくるんですよね。

 

--- なるほど・・・。

 

逆に写真って一切言葉から離れた方が僕はおもしろいと思うんですね。だから言葉にできないけれども、存在しているものがまだまだ世の中にはたくさんある。そこから見た時に、今まで自分は言葉で何を表現してきて、どれを表現できなかったのかというのがなんとなく見えてくる感じがするんです。

 

---立ち位置確認?

 

そうですね。そうやって言葉にできないものしなくてもおもしろいものがあるということを写真を始めて知ったから、じゃあどこまでまた言葉にしていくのか、というような境目みたいなものを自分の中で確認できたという感覚はありますね。

 

---それは小説にもいい影響かもしれないですね。そういうところが関口さんにとっての写真のおもしろさなんでしょうか?

 

ん~写真のおもしろさっていうと難しいですね。小説と写真と比較して考えると、写真ってその時に撮らないともう遡って撮れないですよね。でも小説っていうのは自分で見聞きして憶えたことを、遡ってまた出していける。その「今撮らなきゃ、二度と撮れない」というのもまたおもしろいですよね。それに外に出て撮影するから、色々な物や人に出会っていくっていうのもまた楽しいんですよね。

 

--- あ、そうか。小説はおうちで書くんですもんね。

 

そうなんですよ。全然人に会う機会がなくて。外に出かける用事も犬の散歩ぐらいで(笑)。だからたまにしゃべると声がすぐ枯れちゃう(笑)。

 

---ははは(笑)。でもいいなぁ~小説家!憧れる!やっぱ部屋は汚いんですよね?

 

僕はキレイですよ。ものがたくさんあるのイヤなので・・・。ゴミもすぐ片付けるし・・・。

 

--- ダメですよ!小説家の部屋は汚くないと!丸めた原稿用紙があちらこちらにあったり、資料と本の山にうずもれているような。ちょっとものを動かすと、ザザザーっと、本が崩れ落ちるような・・・。それがわたしの小説家の理想像です!ゴミなんか拾っちゃダメですよ(笑)。そのままでお願いします!

 

はい・・・わかりました(笑)。

 

--- よろしくです(笑)。話してたらますます「空をつかむまで」、読みたくなっちゃった。amazonでポチッとしますね!

 

余ってるのがあるから、持ってきますよ。

 

--- いえいえ!ちゃんと買いますよ!

 

大丈夫ですよ~。春に出した本も一緒に持ってきます。

 

--- え~じゃあお言葉に甘えちゃおうかなぁ・・・ありがとうございます!甘えたついでに・・・サイン入れといてください(笑)。

 

わかってます(笑)。了解です(笑)。

 

聞き手:木下マリ子

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